●木を植えた人
『木を植えた人』
そのタイトルに引かれて、ささやかな冊子を手にしたのはいつの事だったか。それは19世紀末、フランス南部マノスクで生まれ、生涯その地を離れず、小説、詩、劇、翻訳など広範囲にわたる作品で人々を魅了した、作家ジャン・ジオノの実話ともとれる感動的で荘厳な物語である。
退職した一人の男が、荒涼とした土地に何十年にも渡って毎日毎日、種を植え続け、その地が信じ難い程の森に変わり、多くの人々に幸せをもたらした、そんな話しなのだが、その感動を伝えるには私はあまりに稚拙で表現の手法を持たない。
巻頭、こんな語りがある。
「ある人は真になみはずれた人物であるかどうかは、好運にも長年にわたってその人の活動を見続けることができた時に、初めてよく解る。もしその人の活動が、類いまれな高潔さによるもので、少しのエゴイズムも含まず、しかもまったく見返りを求めないもの、そしてこの世に何かを残していくものであることは確かなならば、あなたはまちがいなく忘れがたい人物の前にいるのである。」と。
私はこの話しを読み終えた時、ある作家を想像した。私にとって忘れ得ぬその作家、小林 潔史は若くしてこの世を去ったのだが、彼は将に日々、自分の中の宇宙たる芽を形にしていった。休まず弛まず心に湧きい出るイメージを大地にも似たる球体に乗せて。その数およそ6000。
膨大な数の、小さな小さな夢のような命の種は、風を受け光を浴びてひたすら宇宙へ広がる森となった。
今もなお、こうありたい、と願える、そんな忘れ得ぬ作家である。
カタログ
KIYOSI KOBAYASI
WORKS
小林 潔史
1989-1994
『光のかたちを求めて』
より