●線の風景
夏の暑さも本格化しないまま台風も襲来し、燃えもせず、発散もせずのフラストレーションが溜まりそうな夏。若者でなくとも「少しははっきり夏は夏らしく振る舞ったらどーだあ!」くらいの苦言をお天道様に申し述べたくもなる。逆に学生へのデッサンの指導は理由を欠いたリベンジ精神さながらさらにエスカレートして濃くなっていき、中には涙ながらに逆襲を試みる学生もいてこちらはこちらでキナ臭い。
最中、ふと息抜きに外へ。夕方の風景に線が浮かびあがる。何かやけにノスタルジックな記憶を呼び覚ましてこれも危ういのだが、その郷愁じみた記憶がどこから来るのか、心当たりはいくつかある。
作家「松本竣介」の線の心地よさに心動かされたのはいつのことだろう。
線の多様さとシンプルな線が含む深さと。 台風来襲のどんより空に線は適度な奥行きで浮かび上がり上昇していく。
さてさて、すこし重荷を解いて夜の指導へと向かいましょう。
*高澤学園発行/松本竣介デッサン集より