●霞を食う男
彼はいつも颯爽としていて、何事にも取り乱すということも無く、そしてあくせくせず、穏やかだ。勿論、結婚していて子供も大きいのだが、そんな妙な生活感もない。私からすると「霞を食って生きている」類いの人種の一人だ。
彼はリトグラフの「刷り師」。もう20年来の友人である。刷り一筋、これ一本。緑豊かで閑静な住宅地の自宅の工房で黙々と刷る。刷るものも面白い。彼は画廊を回り、あるいは作家と交流し、琴線に触れた作家とコラボレーションする。作家決定の基準は様々なのかもしれない。私がその一人であることを考えれば頷ける。作家の中にはリトグラフは勿論、版画など一度も経験の無い作家もいて、とんでもない版を持って来る、普通なら「マジ切れ」の輩もいるのだが、彼はそうした作家の「難問」にも立ち向かう。こうした作家の中からメジャーになって行く作家も登場するのだが、大概は画廊が傲慢不遜にこうした作家を抱え込み不自由にしていく。彼の作家発掘はその意味でも個性的。
今日もきっと黙々とやっているに違いない。