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2008年11月05日

●上野蜃気楼

世に言われし「芸術の秋」である。色とりどりの紅葉が眩しい程、寒い冬を前にした最後の徒花のようにきらびやかである。想像してみてほしい。作家にとっても、この時期に作品を発表するということは、実はあの暑い夏を少しは避けて制作できるということであって、本番への追い込みもそれなりにスムーズにいくのである。やはり秋は作家にも鑑賞者にとっても相思相愛の季節なのだ。
というわけで、私にも連日、展覧会の案内が届く。都心から離れ山里に暮らす私にとっては簡単においそれとは行けないのだが、意を決して東京周遊とばかりに一日を展示会巡りに費やすことがある。天気も良ければ気持ちは行楽気分、背中にリュックで焦らずゆっくり。巡る順番をメモ書きし、おまけにお昼のメニューまで想像してみるのである(とは言っても意外と立ち食いでかっこんで終わるのだが・・・)。
先日も、治りかけた腰の痛みを確かめるように出かけた。荻窪、新橋、銀座、京橋、自由が丘、そして上野、谷中と盛り沢山。友人作家、後輩、教え子と、いつもなら「次があるので・・」と詫びながら急ぐこともなく、会場でゆっくりと話せるのもこうした「一日巡り」の良さでもある。近頃は立派なカタログも多く、「巡り」が順を追うに連れ、バックは重さを増して行く。その重量は私を新たな制作へ導くエネルギーともなれば,逆に私がもう追いつく事のない時代を突きつけられているようでもあって、いわば過ぎたる者(作家)の郷愁をたぎらせるものともなる。
 懐かしい上野の森を久しぶりに歩きながら、こちらも変わってしまった風景に新鮮さと複雑さを交差させながら佇む。
 想いをかき立てるように突然噴水が勢いよく空に噴き出す。また消える。まるで蜃気楼にも似たケーキのような白い輝きが消滅を繰り返す。そんなリズムの光景を私は、ぼんやりぼんやり眺めては、「もう少し頑張ってみるかぁ」と呟くのでした。

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