●志賀ガーデン/その1「モンスター」
美術予備校はまるで食欲旺盛な巨大な怪獣のようでもある。学生というお腹を空かしたヒナ鳥は貪欲に何でも飲み込んでしまう。
知っての通り学生はそれぞれの描写能力を伸ばす必要上、様々なモチーフにチャレンジする。その為に「保存モチーフ」という、石膏像を中心としたおよそ千点にも及ぶ(数えたことはないのだが・・)だろう静物モチーフが倉庫棚に整然と並べられ、カリキュラムのモチーフとして日々続々と投入されていく。
また人物デッサンの為の男女モデルの数々、加えて鳩、鶏、アヒル、果てはヤギや犬、七面鳥までもがターゲットとなり、時には阿鼻叫喚の動物達の悲しき雄叫びさえこだまするのである。
もうこれだけでも雑貨屋、モデル事務所、動物園と、まぁ何とも多種多様であり、異種なものの組み合わせが生み出すドンパチが美学の基本よ!とでも言うかのように何の脈絡もないままに登場しては去って行く。
一方で「消耗モチーフ」と呼ばれるものがある。その言葉通り、維持、保管に耐えられない物、つまりは「生もの」の類いである。花(鉢、切り花、サボテン)、魚(干物、生魚)貝、果物、野菜等、種類も季節も国籍も問わず投入される。こればかりか金魚、ザリガニ、エビなど、「食える、食えない」生き物も生け贄?となる。受験シーズン本番となったこの時期はさらにモンスターは巨大化していく。