●画廊にて
先日、銀座に知り合いの個展へ。久しく会ってはいなかったけれど、その活躍振りは知っており楽しみに出かけた。会場ではこれまた何十年か振りの後輩(とは言え、みんないい歳なのだが・・・)にも偶然に出会い、嬉しい時間を過ごした。
作品は木彫の人体。アニメのキャラクターを立体化したようなしっかりと作り込んだフィギュア的作品。昨今注目されるサブカルチャーの流れの恩恵?とも言える作品の出来映えにうなりながらも、一方で自分の足場の脆さも味わうような妙な気分にもなった。
と、帰り際の芳名帳のそばにふと懐かしい作家のカタログが見えた。
「舟越保武」氏の作品集。
作品写真というよりは、カタログのタイトルが示すように、一冊は「石と随筆」、もう一冊は「舟越保武のアトリエ-静謐な美を求めて」とある。
舟越先生(私が学生当時、芸大教授として指導にあたっていました)に関しては忘れ得ぬ多くの思い出があり、何かことある毎に私の中に再来する作家でもある。それは山深い渓谷で釣りをしている時に出会った岩の存在に感動した時、あるいは暑い最中に無心に制作する瞬間だったりと様々である。
単にノスタルジーではなく、舟越先生の、作品が生まれる瞬間やそこまでのプロセスに触れる時、生き方そのもに合致した作品の成り立ちの有り様が見えるようで嬉しくなる。どこかで「こう、生きればいいのか・・・」とさえ思えるような心の静寂に包まれる、そんな感じなのだ。
二冊のカタログを買い、帰りの電車でカタログを拡げた。
作品の力とはきっとその人の「生きる力」に等しいのだろう。
そんな作品を作りたいものである。
舟越保武 石と随想 求龍堂発行