「インタビュー企画第45弾」
2023全国公開実技コンクール特集
担当 田中綾子 谷内めぐみ
ーすいどーばた美術学院講師10名の採点総評コメント掲載ー
各講師から、今回の公開コンクールについての総評を書いてもらいました。
それぞれの言葉をしっかりと受け止め、今後の制作の参考にしてもらえればと思います。
文章が送られてきた順に掲載します。
すいどーばた美術学院 彫刻科講師 田中綾子
みなさんコンクールお疲れさまでした!
この時期で6時間のデッサンと考えると、仕事量自体は十分にある人が多く、気合を感じました。
ただ、その仕事が全てモチーフであるアリアスに向かっていっていたか、と考えると残念ながら強引に進めてしまっているデッサンが多いように感じました。
無理やり自分の描き方に当てはめて、どうにかねじ伏せられるようなモチーフではないはずです。たぶんそんなモチーフは1つもないですが。
デッサンを一目見たときに「アリアスだ」ということが目に飛び込んでくるような画面になっていてほしい。
もし私が大学に入る人を選ぶのだったら、アリアスがどんなに素敵な彫刻なのかをデッサンで伝えてくれた人が、大学でどのような作品を作るのかを見てみたいと考える気がします。
「どうだ、達者だろう」と言っているようなデッサンは、まだまだ良いデッサンではないように思います。
でも、時間が迫って気持ちが焦ってくると、デッサンがちゃんとモチーフに向かっていっているかという判断が難しくなってしまうんですよね。
そんなときでも、しっかり判断する力のある人を見極めるために、試験時間って短いのかなと考えたりします。
みんな50時間くらい貰えたら、もっとじっくりと向き合って、最高の1枚を描けるかもしれないのに。
まだ試験まで4ヶ月以上あります。
未来の自分が後悔しないような過ごし方をしてください。
応援しています。
すいどーばた美術学院 彫刻科講師 嶋田一輝
皆さんお疲れさまでした。
今回は133枚の採点だったので、かなりのバリエーションとボリュームで楽しめました。
しかし、狂いが目立ったり、ボヤボヤしたデッサンが多かった為か、全体の数を考えると芸大合格ラインのデッサンは少ないと感じます。
6時間という時間で観察した情報をたくさん詰め込む事が「デッサンの完成」だと思っていると、空回りしがちです。
3次元の立体をペラペラの紙に描き、白い像を黒い木炭で描くのですから、「目で観て、手を動かして描く」だけだと全然本物には近づいてくれません。
自分が観ている像と、自分の描いている像が狙った通りに見えてきてるか、これからどう魅せていきたいのかを考えてみましょう。
手を止めて思考する時間も立派なプロセスです
実技に呑まれず、かつ真剣に本番まで向き合って下さい。
すいどーばた美術学院 彫刻科講師 遠山蘭
皆さん、コンクールお疲れ様でした!
アリアスは彫刻科では少しイレギュラーなモチーフかなと思いますが、2019年度の藝大彫刻科の試験でも出題されています。
いざ描くとなると、一見、複雑な印象の像ですね。
髪の毛の装飾的な部分とゆったりとした動き、そして柔らかな表情など...。明暗や描く位置によっても、かなり景色が変わってきます。
端から一個一個丁寧に描いていけばいいって訳ではないし、構造的に捉えすぎても硬い印象になってしまう、一筋縄ではいかないモチーフだと個人的には思っています。
そんなアリアスと6時間という時間にやられて、焦ってしまった人も結構居たんじゃないでしょうか。
焦れば焦るほど盲目になってしまいます。デッサンの目的を忘れてしまいます。
デッサンを通して伝えたいことは、"描写ができること"でもなく、"構造的に捉えられること"でもないんですね。
それらはただの項目にすぎず、"それらを用いて自分が感じた対象そのものを自然に描けているか"なんじゃないかなと思っています。
今回実力が振るわなかった人も、幸い公開コンクールです。試験までまだ時間があります。
冷静に今の自分の状態を見定めて、今後の戦い方を整えていきましょう。
すいどーばた美術学院 彫刻科講師 阿部光成
皆さん!お疲れ様でした。
今回の課題はアリアスでしたね。
阿部は受験生時代、「あら?このモチーフ意外と強敵?」などと苦戦した印象の課題でした。頭部、首、胸と描くパーツは少ないのですが、顔面から頭部に掛けて簡単には引けない正中線、合っているか?合っていないのか?悩ましい首付きと胸のカッティングライン。後回しにしてはいけないと分かっている装飾的かつ個性的な髪型、男なの?女性なの?どっちなの?とはっきりしてほしい謎な設定、、、難題ポイントが多数ですね。
さて以下にモチーフの難易度を踏まえながらデッサンの善し悪しをざっとまとめてみました。
(1)モチーフに対してしつこく掘り下げながら、絵作りも自然にまとまりがある。(いい感じ!)
(2)モチーフに対してしつこく掘り下げながら、絵作りは自然さもあるがやり取りの跡がまだ見られる。(活きがいいね!)
(3)モチーフに対して掘り下げが不十分な状態で、まとめようと絵作りに走った。(力はありそうだけど、、、)
(4)モチーフに対して掘り下げが不十分な状態で、絵作りも中途半端に終わった。(これからでしょ!)
まだまだ色々と傾向はあると思いますが、簡単に4つに分けてみました。皆さんはどこに当てはまりますか?
寒くなるこれからが頑張り時です!今回の結果にしっかりと向き合い、日々を丁寧に過ごしていきましょう?
ちなみに浪人中の阿部はダメだと分かっていながら(3)から脱出に奔走していました、、、、
すいどーばた美術学院 彫刻科講師 赤尾智
コンクールお疲れ様でした。
今回採点した正直な感想として、空間がすっきり綺麗に見えてくる絵が少ないという印象でした。
まだみんなアリアスを取り巻く空間がどう見えているのかまでは意識が向いていないように感じました。
上位の方のデッサンからも少し息苦しさを感じたので、
歴や実力に関係なく、もっとモチーフの外側の見え方に興味を持って欲しいです。
彫刻科では軸とか構造とかよく言いますがこれら働きが周りの大きな空気の流れを作っているので、自分のデッサンがちゃんと同じ空気の流れを作りだせているかという部分に着目していけば、自然とプロポーションの狂いにも気が付けるようになるのではないでしょうか。
もちろんしっかり描写して描き切ることも大切ですが、その事にとらわれて意識が偏らないようにモチーフと空間の2つを同時に捉える力を残りの期間でしっかり鍛えてください。
すいどーばた美術学院 臨時講師 松本康平
公開コンクールお疲れ様でした!
みなさんどうだったでしょうか?
総勢130人を超える参加者のなかで、本番の緊張感に近い状況だったと思います。
その中でモチーフや画面とどういったやりとりができたでしょうか。力んでしまったあまり描いてるうちに画面が濁ってしまったり、炭や画面が重くなっているものが多いなと僕は感じました。
とは言っても緊張しないわけないですよね。
僕の話になってしまいますが、3浪のときの試験でアリアスを描いたときのことを思い出しました。
順調に描けていると感じ、1時間経ったときに、トイレでも行くかと席を立って離れたら......、なにかおかしい。自分だけ構図が大きくて頭を切ってましたね。アリアスって結構入るよなと思ったら冷や汗止まりませんでした笑
構図を直したかいがあってか、なんとか一次は通りましたが、本番ではやはりいつも通りにいかないです。
緊張もするし、不安やちょっとした失敗でよりメンタルもボロボロになるかもしれない。でもほとんどの人が同じ状況だと思います。
その中で残り時間、最後まで自分に何ができるのか。落ちないために何をすべきか考えて1人で判断できるかが大事になってくると思います。
今回の結果を受け止めて、制作中や本番までの期間で何をすべきか、それぞれ目をそらさずに向き合っていってほしいです。
長くなりましたが、たくさん食べてたくさん寝て、また明日から頑張っていきましょう!
すいどーばた美術学院 彫刻科主任 小川寛之
皆さん、お疲れ様でした。
今年は134名と芸大受験者の7.5割程の学生が参加してくれました。
ありがとうございます。
良いレベルのものもありましたが、まだ全体が一定のレベルに達してないのかな、という感想です。
今回、上位6点以降から違和感が生まれていました。
もっと合格圏の安定した層が欲しいところです。
アリアスはどの位置からでも心地よく収まる構図になります。
また、顎の高さをきちんと取れるとプロポーションが安定するでしょう。
この二点を外している作品が多かったと思います。
その彫刻の持つ陰影、動勢や細部の質感まで、一括りの印象が出せているか、作品に問いながら制作してください。
それでは皆さん今後の健闘を願っています。
すいどーばた美術学院 彫刻科講師 野畑常義
みなさんおつかれさまでした。アリアスは自分の中でなかなかクセのある像で、学生時代にあまりいいのを描けた記憶がないんです。座ってずっと見ていると、顔面の広いグレーの中の形などが分からなくなってきてしまう。髪も多く、頭蓋バランスの先入観を裏切ってきます。 学生たちにとって大切な公開コンクールの審査に適当なジャッジをしてはならないと思い、よくよく実物の把握に努めてから審査に臨みました。
で、そうすると気づくんですけど(すごく偉そうに読めちゃうかも知れないんだけど、、笑)そんな大した難しい像じゃない。 すごくわかりやすい動きをしているし、フラットに見えてくる胸も量感豊富で描きやすい。 ただアリアスを描いた学生当時の僕は、たぶん真っ先にデスケルを覗いちゃってたし、あまり意識して目をフレッシュに戻そうとせずずっと座って見ちゃってたんですきっと。
一位の作品は空間、光の印象がとても良く広く票が集まりましたが、カットされた胸の形の正確性や量感の再現がやや淡白な追求で終わってしまったと思います。そう言う意味ではばっちりアリアスだね!と言うデッサンは一枚もなかったのかなと思います。
最初に把握しようと努めること。分かった!と言う実感が降りてきて完成イメージが出来るまで描き始めないこと。もっと言うと昨日までの知った気を全部忘れて、知らないことを一からやるつもりで臨む。だから毎回最初にじっくりと情報を入れる。そうやってどこか永遠の初心者のような姿勢を忘れないようにしたいなと、みなさんに伝えたいと同時に自分でも再確認した審査でした。
すいどーばた美術学院 彫刻科講師 谷内めぐみ
みなさんお疲れ様でした。
気合いを感じる画面がたくさん並んでました。
でも、その気合いの入った力強さが強引な様にも少し感じました。
黒めのデッサンだったり、アリアスらしい柔らかさが整頓され過ぎて硬く見えるものが全体的に多かった印象です。
いつもと違う環境になった時の自分の状態の整理はとても大切なことだと思います。
どんなアトリエだったか、天気はどうだったか、昨日感じとった空気感を思い出せますか?
周りの人のことだったりが1番に浮かんでしまっていたらまだ本調子が出せていないのかもしれないです。
人が増えたり、環境が変わる事に不安や緊張はついてきてしまうとは思いますが、モチーフはいつも変わらない事と同じで、真剣に打ち込んできた経験や時間も変わらない事だと思うので、今回のコンクールでの自身の記憶をしっかり振り返って本番で全力を出し切れる様にしたいですね。
あと4ヶ月、目標に向かって踏ん張っていきましょう。
すいどーばた美術学院 彫刻科講師 小野海
見えている景色を何とか描き現してやろう、みたいな意思を感じるデッサンが多くあって、それが強引な仕事ではなく、モチーフの置かれた空間の再現として見えてくるものが良いデッサンとして目立ってた印象です。
意気込みや気合いや緊張が単純に描く仕事量の多さに繋がってしまうと炭や画面が濁ってしまいます。そういった、無理した炭で描いてしまったが故に、空間が見えてこないデッサンが多いというのも今回の公開コンクールから受けた印象です。
この先大学に入って作品を制作するまでにまだ猶予があります。それまでにデッサンにおける「空間」という概念ともっと格闘してほしいというのが個人的な思いです。
パースとか顔の印象とか構図とか構造とか精度とか、様々気にすることはありますが、全ては空間の為だと思います。 果たして自分の木炭紙はちゃんとモチーフがまとった空間を感じる絵になっているのか、そのために大事な事は何なのか、もっともっと考えて下さい。