「インタビュー企画第15弾」
〜 受験生へ!応援インタビュー 〜
今年も残りわずか、受験生の皆さんは日々デッサンや、塑像の向上に励んでいる事と思います。ですが受験が近づくこの時期、やはりナイーブになってしまい技術的なこと意外に、メンタルが実技の内容に大きく影響してしまいます。「努力は怠ってないけどやっぱり不安だよー」なんて感じている人もいるのでは?そこで、今回のインタビューは今年合格した東京芸大一年生4人に、昨年のこの時期からを思い出してもらいながら、5つの質問に答えてもらいました。きっと不安を解消できる話が聞けると思います。ぜひ参考にしてみて下さい。
東京芸大一年生 山田亜紀 西沢紅伽 浅井拓馬 宮内素 (順不同)
インタビュアー 氷室、阿部 (以下→ 氷、阿)
(氷)まずは4人の紹介を兼ね最初の質問をしたいと思います。
「振り返ってみて自分を自己分析するとどんなタイプの受験生でしたか?」
まず始めに、山田さんお願いします。
山田 亜紀 3浪 長野県出身(以下→ 山)
(山)えーわたしはー地道にコツコツ系でメンタル面での浮き沈みはもろ実技に直結型でした(笑)深く考えすぎて自分で問題点を更に大きくして深みにはまる事が多かったですね。
(阿)そうだよね。脅かしじゃないけど余り深く考えちゃうと三浪とかしちゃうよね。ハマルっていうのかな?僕も三浪したけどわかるなあ・・・(しみじみ)
では、紅伽さんお願いします。
西沢 紅伽 1浪 山梨県出身(以下→ 西)
(西)私は真面目なタイプになるのかな。良く言えば真面目というか、悪く言えば融通がきかない。決められたことをやらないと(休んだりすると)罪悪感が生まれるんです。マイペースに授業に向かうというより、決められた時間に従って動いてました。
(氷)私も近かったかも。決められた事をこなしている方が安心できるというかね。休めないタイプだったな。
浅井くんはどおだった?
浅井 拓馬 1浪 茨城県出身(以下→ 浅)
(浅)そこそこに真面目でそこそこに適当な(笑)、楽観的でもあるけど気にしやすい所もあるみたいな、そんな若干気分屋みたいな人間なので、受験生としてはどうですかね・・・ダメな奴にならないよう、努力して頑張ってるヤツになろうとしてたヤツ・・みたいなかんじかなあ(笑)
(阿)時には無理しているのかな?って感じるくらい自分を追い込んで頑張っていたよね。
それに対して、宮内はどうだった?
宮内 素 1浪 埼玉県出身(以下→ 宮)
(宮)かなりマイペースだったと思います。やる気があるときとそうでもないときの差が激しかったです。「頑張るけど無理はしない」が座右の銘でした(笑)
(氷)結構、肝の据わったマイペース型だったんだね!
(阿)それでは次の質問ですが、この時期に限らなくてもよいのですが
「当時取り組んでいた課題とそれに対して具体的なトレーニング法など、通常のカリキュラム以外で何かありましたか?」
山田さんお願いします。
(山)二浪の時は画集や参作見たり夜間残って講評で言われた実技の改善点を直してみて、良くなったと自分で実感して分かろうとしてました。中々上手くいきませんでしたけど(笑)三浪になったら自分が良く出来るかなと思った実技だけ残ってやってました。
(阿)それまでに色々やってきたから最後の年ってシンプルになるよね。
それに対して一年で決めた浅井くんはどう?
(浅)自分の問題点を考えながらこうかなー?こうかなー?と、自分なりには毎回色々試したりしていたつもりです。漠然としてると「思ってるのに表現できねーなー!」と、イライラしてしまい自分にも他人にも何一つ良いことがないので、「今回は粘土をこう動かしてみよう」とか「流れで見てみよう」とか、事前に何かしら目標設定はしてやるよう心がけてはいました(性格柄ガッツリ決めてかかるってわけではないんですが)。あとは、夜はなるだけ残っていました。半ば筋トレ的に自分にムチ打ちながらやっていれば、それが生きる時もあると思います。
ー少なくとも予定もないのに帰っちゃうヤツなんかに比べればー
(阿)いいねー熱いねーストイックだねー
(氷)同じ1浪の宮内くんは、浅井くんと良きライバル関係だったと思うんだけど、どうだった?
(宮)自分の場合はとにかく手を動かして経験不足を補わねばと思っていたので、夜は基本的に毎日残って講評で言われたことをやってみたり、たまに全身像デッサンや友人像などテンションの上がることをしてました。
(阿)宮内の※生ものモチーフでの実技、自画像とか印象的だったなあ。
宮内くんの自画像
そういえば紅伽さんはいつもバイトをしていたよねえ?
(西)そうなんです。わたしは大抵バイトがあったので授業外に時間をとることがなかなか難しくて。同じ歳の浅井くんや宮内くんはいつも遅くまで残って勉強していたから焦りましたね。それにやはり彼らの実技はコンクールなどでも評価されていたので・・・だから授業内で最大限集中できるようにしていましたね。
でも直前の時期はもう人と比べるのはやめて、自分の時間をいかに濃く使えるのか、と割り切って実技に向かってました。あと、実技のテクニックをたくさん盗むために、上手な人の隣でデッサンや塑造をしてました。特に模刻なんかは上手い人と一緒だと、自分も自然に身体を沢山動かせたし、ペースがつかみやすかったですね。
(氷)自分と周りを良く観察しながら冷静に判断していたんだねー。やっぱり、より時間の使い方にはシビアになるよね。
(氷)次の質問に移りたいと思います。みなさんそれぞれ
「キッカケになった実技や出来事」
があると思うんですけど、山田さん何かありましたか?お願いします。
(山)うーん、沢山ありましたね!(笑)描写の意味をやっと理解した時に描いたラオコーンとかフォーン、円盤も然りですが、やっぱり氷室先生に教えてもらった粘土での必殺小割り法は私にとって衝撃的でした!それまで塑像で作れなかった表現がやっと作れた事で多くの悩みが芋づる式に解決されたのが印象的でしたね。
山田さんの自刻像
(氷)必殺小割り法(笑) 本当に小さなきっかけで、ぐんぐん変わるんだあ!って私も感動したもん。考えている事が手に伝わってできる様になると感動的だよね。浅井くんもそんな出来事ある?
(浅)コレと言っては無いです。(キッパリ!)
ただ、ひとつひとつ自分の試してきたものが徐々に実を結んでくるとモチーフから見えなかったものが見えてくる、そういった喜びみたいなものは入直で如実に感じました。
そういう意味で言うと入直最後のコンクールで描いた奴隷は印象的な一枚で、「あっ? 奴隷ってこうなってんのか」「あっ? スゲーなミケランジェロ」みたいな感覚を素直に感じられたのは良かったと思います。
勿論完璧なものが描けたということではなく、そのデッサンも課題はたくさんあったし、表現できなかった。でも、「漠然と描けないで苦しい」のと「像の到達できない完成度に感動しながら負ける」のでは、感覚の次元が違うところにあると思います。
受験生のみんなも、攻めて苦しいのならそれを受け止めて「今は我慢」することだと思います。逆に、恥ずかしいものを描くのが嫌で無難な表現に逃げているようならば、それは何枚、いくつ数をこなしても意味のないことだと思います。
あと出来事で言えばとにかく色々見ることに尽きると思います。展示でも映画でも音楽でも本でも、そういったものも自分の確たる骨子になってくれると思います。
浅井くんの奴隷デッサン
(阿)あの奴隷覚えているよ!それに夏に描いた馬頭単体も印象深かったな。こうしたい!ああしたい!の欲求って「あぁ見えているのにー描けないよー」そんなフラストレーションが元になっているよね。
紅伽さんのモチベーションって?
(西)私は誉められると伸びるタイプなので(笑)
ブルータス模刻コンクールで、初めて上位に入った時は「多浪の人とも同等に勝負できるんだ!」っていう自信ができて、模刻が楽しくなりました。それからは、上手い人の真似ではなくて、上手い人たちよりも、もっともっと見てやろう!っていう対抗心ができて、実技も変わりましたね。
紅伽さんのブルータス模刻
(氷)質の良い対抗心が原動力になってたんだね。宮内くんもモチベーションを大事にしていた様に感じたけど、どうだった?
(宮)わりとどばた以外の場所で、新しい発見やわからなかったことに気づくことが多かったです。満員電車の中だったり、作家さんたちのお話を聞いてるときだったり、大学の試験本番中だったり。いつ何が起こるのか分からないものです。
(氷)なるほど。アンテナ張ってたんだねー。
(阿)次の質問ですが
「コンクールの成績が振るわなかった時など、落ち込んだ時どうやって自分を奮い立たせたの?」
紅伽さんはどう?大きな声では聞けないけど公開コンクールではどちらかっていうと3ケタに近い順位だったよね?("汗")
(西)あ〜っ、あの時ですね。ちょうど公開コンクールでの自分のタイミングは、実技が噛み合わない悔しさや、順位に対する焦りはありました。それもあって公開コンクールの結果に対して、あーやっぱりなって、まだまだだなーと真摯に受け止められる部分もありました。それまではキャリアのある浪人生に負けるのはしょうがないって、言い訳をしてました。だけど、戦わなきゃいけない!!って。それからは無いものねだりをやめて、自信が持てる部分だけを伸ばして、ネガティブにならない様自分のモチベーションをあげましたね。それからは、実技に向かうのが楽しくなりました。
あと私はすっごく恋愛体質で(笑) 当時大好きな人がいたんですけど、オフの時はその人のことばっかり考えて実技から現実逃避しました。でも授業の時は頭を実技に!恋のおかげでオンとオフの切り替えが上手くいったのかなあ。 たぶん恋してなかったら、頭が実技だけになって、つぶれちゃってたと思います。
(氷)知らなかった!そんな切り替え方法もあるんだねー。
浅井君は、成績が良かったイメージがあるけど、プレッシャーを感じたり、成績が振るわなかった時はどうしてたの?
(浅)自分は高校の恩師から「君みたいなタイプは※Bマル以下はとっちゃダメ」と言われていたので(天才肌でも個性派でもない、フツーの実技をする人間なので)、Bマル行かなかったときはマズイと落ち込んだりしましたが、でもそんな落ち込みも焦りもしたところで時間の無駄なので、「次!次!」となるだけ早く忘れるようにしてました。コンクールは成績がわかりやすく出るだけの話ですし、ナーバスになりすぎるなら「じゃあお前いつもの授業はどうなんだ?」といったところだと思います。
(阿)前向きって大切だよね!宮内はどうだった?
(宮)落ちこんでいるときはとことん落ちこんでました(笑)その方が早く立ち直れる思ってたんで。どうしても元気が出ないときはどばたを休んでどっかに出かけたり、やりたいことをしてました。
(氷)時には自分なりの息抜きも大事だね。山田さんはどうだった?
(山)その日の問題はその日の内に解消させようと思い、先生方にアドバイスしてもらってました、特にそのままでも良い所は自分の中では注意して聞いていました。自分だけで考えると全部ダメだったと思い込んでお先真っ暗になりやすかったので、次の実技への希望の光りを残すためにも(笑)
(阿)今日の自分は明日の自分のためだね。
(氷、阿)最後に一言「受験生に応援のメッセージ」をお願いします。
(山)今の時期は焦りや不安、悩みがあると思いますが、まずは自分の興味のあるモチーフに向かい、捉え方が見えてくれば入直から1課題に充てる実技の時間が短くなってきても強いと思います。今はまだ、ハッキリしてなくても入直になれば自ずから出てくると思うので、焦らずに自分と対話してみて下さい。応援しています!!
(西)なんとなくの時間を減らして、濃い毎日を過ごせば、実技はめきめきと輝いていくと思います。どばたには、熱い先生と、良いライバルがたくさんいます。たくさんのモノを観て、聴いて、感じて。たくさんのヒトと話して、恋をして、泣いて、笑って。試験という限られた1日に、等身大の自分をぶつけられるように毎日を充実させて下さい!
(宮)やりたいことをやりたいようにできる奴は強いと思います。具体的じゃなくても良いから、自分なりのイメージをもって頑張ってください。あと風邪には気をつけましょう。
(浅)美大受験は自分の表現さえしっかり出来れば受かる、ある意味ではとても幸せな世界だと思います。大学へ行けばそれ以上のものを求められるし、自分も多くを求めないといけなくなります。「予備校時代の話」なんて、ずっとしてるわけにもいきません。だから、自分の表現から逃げないことが大事だと思います。人マネはしたところで所詮は人マネ、いつか絶対に苦しくなります。嫌でも自分の表現を受け入れて、それを基盤に様々な視点から強化していく。そうすればいつか、多面的に魅力あるものになると思います。
とかく僕らの世代は虚無感漂う世代ですから、それに流されないようお互い燃えていきましょう!!
(氷、阿)最後にみなさんしっかりと締めてくれました。本当にありがとうございました。4人の話を聞いていると、受験を通して様々なことを感じ、悩み、考え、自分と戦っていたのだなぁと感じました。受験生の皆さん参考になったでしょうか?夢を実現するためもう少しがんばっていきましょう。
※生ものモチーフ‥‥石膏像や模刻のような無機質なモチーフに対して、自画像、モデル、動物など有機的なモチーフ。
※Bマル(ビーマル)‥‥東京芸大一次通過レベルの評価用語、他にはa(スモールエー)やB'(ビーダッシュ)など実技の評価に対して7個の用語が使われます。
インタビュー後の打ち上げにて。
その他の大学生活やバイトなどについてのインタビューは、また春に掲載を予定しています。お楽しみに!